【寄稿】こんにちはトイレ

山東 格(66143)

 私はかねがね国の文明度を計る尺度の一つはトイレの良しあしではと考えていました。それは今も変わりません。2000年初頭、フィリピンマニラ訪問時の事でした。国際線出発待合室トイレは尿の臭いで辟易、マニラ近郊景勝地タガイタイのトイレはまさにバラックでした。しかし時を経て最近は見違えるようなトイレに変貌しているようです。

ここ20年はドイツ、オーストリアの旅に病みつきになっています。

独墺では町中のトイレは有料です。清潔を保つ為の維持費用プラス治安対策、サービスは利用者負担という文化が背景にあるとされます。2019年旅行時はミュンヘン中央駅のトイレ使用料は1ユーロでした。ウィーンのオペラ座近くの地下街のトイレでは、コインを投入するとクラシック音楽が鳴り響きビックリした事があります。今はなくなっているようですが。インスブルック中央駅の前に超豪華ホテル グランドホテルオイローパがあります。イギリスのエリザベス女王も宿泊されました。ホテルは豪華、格式、権威の象徴と言われる大理石造りです。1階にあるカフェは宿泊客以外も利用でき、チロルの民族衣装の女性達が接待に当たっていました。トイレも1階にあり利用しました。扉を開けると、飛び込んできたのは大理石造りの豪華な洗面化粧台と間違ってしまいそうな手洗い所でした。出るものもビックリしたのか一瞬沈黙してしましました。使用料は無料でした。

20年前ウィーンに通い始めたばかりの時期、とある通りにあるレストランに入り、食事を終えトイレはどこですかと尋ねると、店の男性は無表情で鍵を持って店の外の公共トイレに案内してくれました。鍵付きの個室でした。店の人は相変わらず無表情で扉の前に立ち、用足し中の私を監視しているようでした。一瞬ですが鍵をかけられ、1人ポッチにされないか?とちょっと心配になりました。何故このような個室トイレに連れていかれたのか長年の疑問でした。チャットGPTに質問すると次のように答えてくれました。「古い町並みの中にあるレストラン、カフェなどの入ったビルは建物自体にトイレを備えていない所があった。トイレを持たない店が町の公衆トイレを顧客用に契約している。その為鍵付きの店専用の個室が必要だった。一般利用者は有料、飲食店利用者は無料だった。」

成程、パリのベルサイユ宮殿にもトイレはなく高貴な人々はオマルのような腰掛式便器を使っていたといいます。その中身の処理は下女や召使が庭園や空き地などに捨て放題、悪臭が漂い衛生的には劣悪な状態で、病気の温床だったにちがいありません。身分の低い人々は森の中など人気(ひとけ)のないところを探し、用を足していたとの事です。イングランドでは16世紀から17世紀にかけ「王様のお尻ふき役」が存在し、王の最も私的な場に立ち会う為、王の信頼の厚い大貴族の息子たちがこの大役を担ったということです。正式には「Groom of the stool -便座の従者-」と言ったそうです。

1980年我が国でウォシュレットが発売され、国内では80%の普及率となっているそうです。遠くない将来ウォシュレットは世界標準になるのでしょうか。従来のトイレからウォシュレットに切り替えた時、これで痔の恐怖から解放されたと感じました。

私は長年頻尿に悩まされています。外出時はいろいろな場所でトイレを利用しますが、コンビニが多いです。トイレは「現状を映す鏡」と考え、生活水準と密接な関りがあると思っています。綺麗で明るく使いやすいトイレ空間を見つければほっとします。非収益空間にカネをどれだけ掛けるかは勿論、企業経営者の意志決定次第ですが、余裕を持って客を心地よくもてなそうという姿勢であれば共感を呼ぶのではないでしょうか。余裕を体現させるためのおカネをどれだけ持っているかが勝負、綺麗なトイレ環境を作る事は、例えば、レストランなら高い社会的評価を得るチャンスになるのではないでしょうか。ミシュランは基本的にかかる事も念頭に置きランク付けしているとの事です。

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