【寄稿】心の故郷(ふるさと)ウィーン

山東 格(66143)

ウィーンは約200万人が暮らす世界遺産旧市街(ウィーン歴史地区)を中心とした静かな、自然を大切にした空気が美味しい素晴らしい町です。ビルの屋上で養蜂業を営む人がいたり、少しのスペースを見つけブドウを植え、ホームメイドワインを楽しむ人もいます。旧市街は大きな通り(Strasse)が大動脈、路地(Gasse)が毛細血管のように作られています。

「森の都」とも言われ市街地の大半は森に囲まれ野生動物も生息、ブドウ畑も点在しています。都心から地下鉄Uー4に乗り約20分行くとハイリゲンシュタット(Heiligenstadt)駅に到着します。周辺はウィーンの森の入り口の一つで自然豊かなところです。地名の由来はheilig(聖なる)Stadt(町)で「聖人に囲まれた場所」。中世より巡礼、療養の地でした。

1802年難聴が進行、精神的に追い詰められた楽聖ベートーヴェン(1770-1827)は、医師から静かな郊外で療養することを奨められ、ハイリゲンシュタットに滞在しました。静かで落ち着いたこの地は大のお気に入りとなり、人生の転機「苦悩から芸術への再生」のきっかけとなった地とされます。1814年頃聴力を失った後も数々の作品を発表。最晩年の代表作「交響曲第9番 第4章 歓喜の歌」は1993年EUの発足にあたりヨーロッパの平和と団結を象徴する「欧州連合賛歌」となりました。

約20年前の数年間NHK「毎日ドイツ語」でドイツ語の基礎を勉強しました。その時ドイツ人の女性アシスタントが「私の趣味は墓地に行きゆっくり静かに時をすごす事」と話すのを聞いたのが耳の奥に残っていました。かの地では「死も人生の一部」という思想があり墓地は静寂と芸術、そしてユーモアが同居する場所。訪問者は墓参りと言うより文化巡礼、芸術散歩、墓碑は故人の人生を語る小さな芸術作品。つまり墓地は生者と死者が共存する穏やかな空間との考えだそうです。これは最近仕入れた知識で2010年ウィーン中央墓地訪問時はなにも知りませんでした。

中央墓地はウィーン市の管理で1874年開設、ウィーンにゆかりのある人はだれでも埋葬してくれます。広さは約2.5㎢(東京ドーム約53個分)埋葬者300万人以上、ヨーロッパ最大の墓地です。都心からトラム(市街電車)で約30分。停留所のすぐ前に大きな入り口があり、中に入ると、まるで野外美術館のように思い思いの墓碑がたっていました。たまたまお会いした墓地の関係者に著名音楽家たちの墓が集まる「名誉墓地区」と呼ばれる一画を教えてもらいました。ベートーヴェン、シューベルト、ヨハンシュトラウス2世などの天才が眠っています。ベートーヴェンの墓碑はメトロノームを模したようでした。彼は世界で最初にメトロノームを積極的に導入した作曲家の一人だそうです。墓地は静寂に包まれ、周りは死者ばかりと思うと、なんとなく体がゾクゾクっと小刻みに震えだしました。文化の違いか墓地で寛ぐ事を理解し堪能するまでには時間が掛かりそうです。

古き良き伝統が今も息づく王宮を中心にした世界遺産の市街地。ドナウ川の向のIAEA(国際原子力機関)、OPEC(石油輸出国機構)などの国際機関が立ち並ぶビル群では約5,000人の人々が未来に向かって働いています。

かつてベートーヴェンが歩いた同じ石畳を世界中の人が歩く。伝統と現代が呼吸を合わせて生きている町ウィーンは永遠に光り輝くでしょう。幾度かの旅行を通じ東洋とは違う価値観、物の見方、西洋世界に触れる事が出来たのは無上の喜び又楽しみでした。

ヨハンシュトラウス2世像
ヨハンシュトラウス2世像
ベートーベンの墓標
ベートーベンの墓標
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